ヴィヨンの妻

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

<12冊目>
祖母の家には大きな大きな本棚があって、それをただ眺めるだけで私はとても幸せだった。小さな頃から。いい匂いがした。古くて湿ってでも暖かい。

私が生まれて初めて読んだ太宰の作品だ。
祖母の本棚の中で知らないタイトルのなか、これだけ背表紙の文字が読めたのだ。旧字体がふんだんにつかわれていた。単行本だった。私は小学生だった。「トカトントン」をまず読んだのをよく覚えている。いちばん取っ付きやすいタイトルだったのだ。内容はよくわからなかった。こどもだもの。

一番好きなのは「おさん」だ。恋に悩みそうな時いつも決まって読んだ。

「地獄の思いの恋などは、ご当人の苦しさも格別でしょうが、だいいちはためいわくです。」

本当この一言に尽きる。